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インド基礎概論

A-1-4:インドにおけるECBローン活用ガイド~制度概要と実務上の注意点~

近年、インドにおける資金調達環境には大きな変化が見られます。特に、2024年の制度改正により、Private Company(非公開会社)においても株式の電子化(dematerialization)の義務化が進められ、2025年7月以降は紙面株式による追加株式発行や譲渡が認められなくなる可能性が高い状況です。このため、今後は増資手続きに従来以上の時間やコストが発生する可能性が高い状況となっています。

このような背景から、従来以上にスムーズかつ柔軟な資金調達手段として、External Commercial Borrowing(ECB)ローンの活用が注目されています。ECBローンは、インド現地法人(以下、インド現法)にとって迅速で実行性の高い選択肢となりつつあります。

本記事では、ECBローン制度の概要、規制フレームワーク、最新動向、実務ステップ、注意点について解説いたします。

(1)ECBローンとは?

External Commercial Borrowing(ECB)とは、インド国内の法人が外国銀行、国際金融機関、外国企業などのインド国外の貸し手から調達する外貨建ての資金を指します。日系企業のインド現法においては、特に日本本社あるいはグループ企業からの借入(親子ローン)という形での活用が多いです。

(2)ECBローンの主な特徴

  • インド準備銀行(RBI)による規制がある
    :ECBローンはインド準備銀行(RBI)の管理下にあり、借入条件(資金使途、最低償還期間、上限利率など)について詳細な規制が存在するため、契約作成時には十分に検討が必要です。規制の具体的な内容については次章で触れたいと思います。
  • 借入後にRBIへのレポート義務が発生する
    :借入後は、返済状況などを月次でRBIに報告する義務が発生します(Form ECB-2)。Form ECB-2には、借入残高、元本および利息の返済状況、借入通貨、利率、借入条件の変更(ある場合)、支払済利息、未払利息、RBIへの過去報告の訂正事項などを詳細に記載する必要があります。また、翌月7営業日以内のレポーティングが義務付けられており、Formの未提出や誤報告は罰則の対象となる可能性があるため、慎重な対応が求められます。
  • 低金利での資金調達が可能
    :インド国内金融機関からの借入に比べて、ECBローンの借入は一般的に金利が低く抑えられる傾向があります。例えば、インド国内銀行からの法人向け融資金利は近年年9%~12%程度で推移しているのに対し、ECBローンではSOFR(Secured Overnight Financing Rate)+450ベーシスポイント程度(約6%前後)と、調達条件によっては3~6ポイント程度の差が出ることもあります。
  • 迅速な資金調達が可能
    :一定条件を満たす場合、RBIやインド政府の事前承認を個別に経ることなく借入が可能であり、増資と比較すると、資金調達に要する期間が短く済みます。特に近年の株式電子化対応の義務化が進んでおり、増資にかかる時間的・実務的コストが増す可能性もある中で、ECBローンの迅速性は大きな魅力となっています。

(3)規制フレームワークについて

RBI自動承認ルートの条件

  • 借入先(貸し手)要件:借入先の親会社・グループ会社がOECD加盟国に所在している必要があります。
  • 最低償還期間:最低3年。ただし、借入金額が5,000万米ドル以下の場合は最短で3年、5,000万米ドル超の場合は5年以上が求められます。この期間を超えての繰り上げ返済等は認められておりません。
  • 利率の上限:SOFR(Secured Overnight Financing Rate)+450ベーシスポイント以内。従来のLIBOR(London Interbank Offered Rate)は2021年以降順次廃止されており、現在はSOFRベースでの判断となっています。
  • 資金使途:次の使途を目的としてECBローン借り入れは禁止されています
    ・不動産事業(工業用地の取得や不動産開発業は除く)
    ・証券市場への投資
    ・企業への出資
    ・外国株主以外からのルピー建借入の返済目的での調達
    ・上記の目的での転貸目的
  • 利用通貨:主要外貨(USD、EUR、JPYなど)での借入に限定されています。
  • 借入上限:会計年度(4月~翌年3月)あたりの借入総額が最大7億5千万米ドルまでと定められています。この上限額を超える場合には、RBIおよび関係当局の個別承認が必要となります。
  • 借入契約書の内容:借入条件、返済スケジュール、金利、デフォルト条項などが明記されており、RBIに提出する際に適正性が確認される必要があります。
  • 報告義務:借入登録(Form ECB)、月次報告書(ECB-2)の提出義務があります。

※最新のECB規制内容についてはお取引先の金融機関にご確認されることをおすすめいたします。

適格貸し手の要件

貸し手は外国に所在する株主(25%以上の直接出資、51%以上の間接出資、親会社が同一の子会社間(兄弟会社))であり、RBIが認める“認定貸し手(Recognised Lender)”である必要があります。

(4)ECB借入の実務上の手順と注意点

実務手順の概要

ECBローン借り入れは以下の手順で実行されます。ECBローンの場合、借入条件の検討から実際の資金受領まで約1‐1.5か月程度かかります。

i. 借入条件の検討
:親会社との契約内容が上記のRBIの規制に適合しているか、返済計画や利用するAD銀行(Authorized Dealer Bank : RBIによって外貨取引を許可された銀行)など契約内容を検討します。

ii. インド現法で取締役会を開催しECBローンを実行する旨の決議を取る
:上記で検討した条件でECBローンを締結する旨の取締役会決議を取ります。
※将来的に負債の株式転換(DES:Debt Equip Swap)を実施する可能性がある場合には念のため「将来的な株式転換の可能性」について認める旨の決議を含めておくことをおすすめいたします。

iii. (将来的にDESを実施する場合には)臨時株主総会を実施し、「将来的な株式転換の可能性」について決議を取る必要があるのでご留意ください。

iv. 契約書類の準備
:ECBローンの申請には以下のような書類の準備が必要です。

  1. Loan Agreement(ECBローン締結条件等を記載した契約書)
  2. Form ECB(ECB契約の詳細を報告し、ローン登録番号(LRN)を取得するための申告フォーム。指定された認可ディーラー(AD)銀行を通じて、RBIへ提出されます。)
  3. 返済計画書(MAMP)
  4. ECBローンの締結及びローン登録番号(LRN)の発行についてのRequest Letter

v. Loan Registration Number(LRN)の取得:AD銀行を介して借入前にRBIへ上記の申請書類一式を提出し、LRNを取得します。

vi. 資金送金・受領
:LRN取得後に外貨建てで資金を送金し、インド現法で受領します。

vii. 月次報告(ECB-2)
:ECBローン実行後は、借入残高や返済状況について指定フォーム(Form ECB-2)にてRBIへ月次提出します。

viii. 返済・償還
:ECBローン契約内容に基づいて適切に返済を実行します。

実務上の注意点

  1. 将来的なDES(Debt-Equity Swap)への備え
    将来的にローン負債を株式転換し、資本に組み入れる可能性がある場合には、ECBローン契約書に「株式転換の可能性」についての記載があり、かつ株主総会の承認を得ておく必要があります。そのため借入実行時点から上記について対策しておくことをおすすめいたします。
  2. 債務免除の取り扱い
    RBIによる事前承認を取得することで、ECBローンの債務免除を適用することが認められております。ただし、債務が免除された場合、インド法人側では債務免除益(income from remission of liability)として法人税の課税対象となる可能性があります。そのため課税インパクトを適切に評価したうえで慎重な対応が求められます。また債務免除に伴う契約内容の変更については、変更から7日以内にRBIに対してForm ECBおよびForm ECB 2を通じて報告する必要がある点にも注意が必要です。

(5)おわりに

インド進出後、成長に伴い現法の資金需要が高まる中で、ECBローンは資金調達手段としてますます重要な位置づけとなっています。特に近年の制度変更により、従来よりも柔軟かつ効率的に利用できるようになってきており、今後も活用の機会が増えていくと見込まれます。ただし、規制面・税務面における注意点も多く、専門家の助言を得ながら慎重に手続きを進めることが不可欠です。

執筆者紹介About the writter

園部 貴代 | Takayo Sonobe
国際基督教大学教養学部卒。大手ERPパッケージベンダーにてグローバルチームでの会計システム開発に3年間従事した後、大手日系コンサルティングファームにて、会計システム導入支援やDX改革支援、シェアードサービス化による管理部門業務改革支援等に4年間従事。2024年より当社へ参画。現在は会計・税務支援およびインド進出支援を担当。

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