Entry Into India

インド基礎概論

A-2. インド現地法人設立後のコンプライアンスについて

(文責:木内達哉 / Global Japan AAP Consulting Pvt. Ltd.)

現地法人設立後に必要な手続き

インド現地法人が設立されると、会社設立証明書(COI : Certificate Of Incorporation)が登録したEメールアドレスに送られてきます。その際、税務番号(PAN : Permanent Account Number)と源泉徴収番号(TAN : Tax Deduction and Collection Account Number)も自動的に発行されます。法人設立後には下記の手続きが必要になります。今回の記事ではこの中でも主な手続きについて解説したいと思います。

※法人設立までに必要な手続きは「A-1. インド現地法人の設立手続について」の記事をご参照ください。

  1. 第1回取締役会の開催(設立後30日以内)
  2. 銀行口座開設と出資金の送金
  3. 出資金の送金証明書(FIRC : Foreign Inward Remittance Certificate)の発行
  4. 第2回取締役会の開催と株式割当(Share Allotment)
  5. 株式割当に関するRBIへの報告(FCGPR)
  6. 事業開始の届出Form 20による登記
  7. 株券の電子化手続き(Dematerialization of Share Certificate)※2023年10月21日より改訂
  8. 物品サービス税(GST:Goods and Service Tax)の登録
  9. 輸出入コード(IEC : Import Export Code)の取得
  10. 店舗および施設法に基づく登録(Shops & Establishment Act)
  11. プロフェッショナル税(PT : Professional Tax)の登録
  12. 創業費用(Preliminary Expense)の精算
  13. 源泉所得税TDSの納税準備

第1回取締役会の開催

会社が設立されるとインド企業省(MCA : Ministry of Corporate Affairs)より会社設立証明書(COI : Certificate Of Incorporation)が送付され、当該COIに記載された会社設立日から30日以内に第1回取締役会を開催する必要があります。第1回取締役会で決議される一般的かつ主な内容は下記の通りです。

  1. COIを受領したことの確認
  2. 基本定款(MOA)、付属定款(AOA)の確認
  3. 当初取締役の確認、取締役からの宣言受領
  4. 登記事務所の確認
  5. 授権資本額の確認
  6. 発起人への株券発行権限の確認
  7. 監査人の選任
  8. 常勤カンパニーセクレタリーの任命
    (払込資本金の額が1億ルピー(約1憶8,000万円)以上の場合)
  9. 社印(Company Seal)の確認
  10. 会計年度の確認
  11. 各種登録や許認可の申請などの署名権者(Authorized Signatory)の選任
  12. 銀行口座の開設と銀行関連手続の署名権者の任命
  13. 創業費用(Preliminary Expenses)を設立会社が負担することの承認
  14. 取締役会議事録の作成、保管
  15. Statutory Registersの作成、保管
  16. 会計帳簿の作成、保管

※MOA:Memorandum of Association
※AOA:Articles of Association

出資金の送金証明書(FIRC)の発行

第1回取締役会で銀行口座の開設を決議し、本社から当該口座への資本金送金が完了したら、外国国内向け送金証明書(FIRC : Foreign Inward Remittance Certificate)、KYC(Know Your Customer)という資料を銀行に発行してもらいます。

FCGPRの申告

銀行口座を開設し資本金を送金したら第2回取締役会を開催し、株券の発行と株式割当を行います。株式割当後、新株発行による外国直接投資の報告書(FCGPR:Foreign Currency-Gross Provisional Return)というフォームにて、取引銀行を通じてインド準備銀行(RBI : Reserved Bank of India)へ申告します。

当該申告には、上記銀行発行のFIRC、KYC、会社秘書役が発行するコンプライアンス証明書を一緒に提出します。

第2回取締役会の開催

  1. 株式の発行と割り当て
  2. 会社登記局(ROC:Resister of Companies)への事業開始登記

物品サービス税(GST)の登録

物品・サービス税(GST : Goods and Services Tax)は2017年7月に新しく導入された間接税で、日本でいう消費税に相当します。

※GSTの詳細は「E-26. インド新税制GSTの概要について」の記事をご参照ください。

GSTの登録で必要となる資料は下記のとおりです。

  1. 税務番号(PAN)
  2. 基本定款(MOA)、付属定款(AOA)
  3. 会社設立証明書(COI)
  4. 銀行口座情報が確認できる書類
    (Bank Statementの1ページ目、Cancelled Chequeなど)
  5. 署名権者(Authorized Signatory)の選任を行った第1回取締役会議事録
  6. 登録事務所に関する書類(公共料金の請求書など)
  7. 取締役のPANカード、身分証明書、写真
  8. 署名権者(Authorized Signatory)の署名書類(取締役である場合には不要)
  9. 取締役のDIN番号とデジタル署名(DSC : Digital Signiture Certificate)
  10. 事業の概要

輸出入コード(IEC)の取得

輸出入コード(IEC : Import Export Code)とは、インドで輸出入業務を行うために必要な番号です。輸出入コードの取得には下記の書類が必要となります。

  1. 無効小切手(Chancelled Cheque)
  2. 登録事務所に関する書類(公共料金の請求書など)
  3. 署名権者(Authorized Signatory)の電話番号
  4. 署名権者(Authorized Signatory)のメールアドレス
  5. 事業内容の申告(以下の項目から該当するものを選択します
    01- 輸出販社(Merchant Exporter)
    02- 輸出製造業者(Manufacturer Exporter)
    03- 輸出製造業兼輸出販社(Merchant cum manufacturer exporter)
    04- サービス提供業者(Service Provider)
    05- サービス業兼販社(Merchant cum service provider)
    06- 製造業兼サービス業者(Manufacturer cum service provider)
    07- 販社兼製造業兼サービス業者(Merchant cum Manufacturer cum service provider)
    08- その他(Others (please specify))

プロフェッショナル税(PT)の登録

プロフェッショナル税(PT : Professional Tax)とは、各企業が州政府へ納税する地方税で、徴収の時期や登録手続きは州によって異なります。

例えば、タミルナドゥ州の場合、毎年3月と9月の年に2回納税、カルナタカ州の場合は毎月納税が必要となり、プロフェッショナル税の登録には下記の資料が必要となります。

  1. 会社設立証明書(COI)
  2. GST証明書(GST Registration Certificate)
  3. 基本定款(MOA)、付属定款(AOA)
  4. プロフェッショナル税登録申告書(Professional Tax Application Form)
  5. e-PANカード

カルナタカ州の場合、上記の必要資料に加えて無効小切手(Chancelled Cheque)、プロフェッショナル税登録の委任状、プロフェッショナル税を控除する対象となる従業員の給与支払簿(Payroll Register)が必要となります。

創業費用の精算

インド子会社の設立前に日本の親会社が創業費用(Preliminary Expense)を立て替えていた場合、設立日以後に創業費用を日本本社へ送金しますが、その際には注意が必要となります。インドでは全ての創業費用を税務上損金算入することができず、所得税法(Income-Tax Act, 1961)の35D条(2)で特定された下記項目のみ損金算入をすることができます。

  1. 定款作成にかかる費用
  2. 会社設立登記に関連する費用
  3. 予備調査やプロジェクト報告書作成費用
  4. 事業化可能性調査等に関連する市場調査費用
  5. 事業開始に関連するエンジニアリングサービス

但し、市場調査費用やエンジニアリングサービス費用については何が該当するのかを巡って税務当局と争いになる可能性があることから、解釈が分かれる余地のない定款作成費用や会社設立登記関連費用のみを損金算入し、それ以外の費用については税務申告において加算調整するのが保守的な対応となります。

上記に加え、インド準備銀行(Reserve Bank of India)のルールで、創業前費用の国外への送金可能額はUSD 100,000または払込済資本金の5%のいずれか高い方までと定められており、それを超える金額は日本本社へ支払うことができないため注意が必要です。

執筆者紹介About the writter

木内 達哉 | Tatsuya Kiuchi
東京大学経済学部卒。IT業界での営業職を経て、経営企画室にて予算管理や内部統制整備、法務コンプライアンス業務、また、財務経理部にて海外子会社の経理業務などを含む幅広い経営管理業務に約10年従事。2018年より南インドに移住し、インド会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。2022年7月に退職。

インド基礎概論

A-1 : インド現地法人の設立手続について

A-2. インド現地法人設立後のコンプライアンスについて

A-3. インドでのJV・合弁会社の設立時に注意すべきポイント

A-4. インド駐在員事務所・支店の設立条件・要件および設立前に確認すべき事項

A-5. インド駐在員事務所・支店の設立手続について

A-6. インドの支店・駐在員事務所 設立後のコンプライアンス

A-7. インドLLPの設立条件・要件および設立前に決定すべき事項

A-8. インドLLPの設立手続について

A-9. インドLLPの設立後のコンプライアンスについて

A-10. 日系企業のインド進出状況と今後の動向