H-41: インドにおけるサービスおよび物品の輸入取引
(文責:田中啓介 / Global Japan AAP Consulting Pvt. Ltd.)
インドに進出している日系企業にとって、輸出入取引の課税関係やその手続きについて理解をしておくことは大切です。ここでは、輸入時の手続きや必要書類、また、海外送金時に注意すべき各種論点についてご紹介いたします。
1.物品を輸入する場合に必要となる手続きおよび書類
在インド日系企業が何らかの資本財をインド国内に輸入する際には、一般的に以下のような情報・書類が必要となります。
- 輸入業者・輸出業者コード(Importer-Exporter Code : IEC)
- GST番号(Goods and Service Tax: GST)
- AD code(承認取引銀行(Authorized Dealer Bank)が発行する取引業者番号)
- 船荷証券(Bill of Lading : BOL)
(もしくは航空貨物運送状(Air Waybill)や海上貨物運送状(Sea Waybill)など) - 税関申告書(Bill of Entry : BOE)
- 請求書(Invoice)
- パッキングリスト(Packing List)
なお、例えば以下のようなケースにおいては取引の内容に応じて追加書類や対応が必要となります。
(1)無償での輸入
無償での輸入時には、上記に加えて通常購入した場合の適正価格を証するための価格表(FOB Price List)と、当該価格が妥当であることを宣誓する出荷者の価格宣誓書(Shipper Value Declaration)などが必要となります。これらの書類は出荷者のレターヘッドにて作成することとなりますのでご留意ください。
(2)中古機械の輸入
中古機械の輸入時には、上記に加え勅許技術者証明書(Charted Engineer Certificate : CEC)が必要となります。日本においては、「日本海事検定協会」が発行機関となっていますが、日本のCECでは受理されないケースも発生しており、その場合にはインドにおけるCEC取得が別途必要になる場合がありますのでご留意ください。
(3)関連者からの輸入
関連者からの輸入時には、輸入価格の妥当性を評価する税関の機関(Special Valuation Branch : SVB)の評価・承認を受ける必要があります。なお、当該評価期間が長期化するリスクを想定して、輸入申告時に、暫定関税であるPD Bond (Provisional Duty Bond)を取得し、暫定関税額とその1%(状況により最大5%)に相当する追加関税担保金 (Extra Duty Deposit : EDD)を支払うことで輸入通関を実施することが可能です。その場合、当調査完了後に、差額の精算もしくは還付が行われることとなります。
(4)日印EPAの特恵税率を利用した輸入
日印EPAの特恵税率を利用した輸入の場合には原産地証明(Certificate of Origin : COO)が必要となります。なお、インドは自由貿易協定(FTA)締結国を介した迂回輸入など、特恵税率の不正適用を防ぐことを目的として、インド財務省の通達により「貿易協定に基づく原産地規則に関する関税規則(CAROTAR 2020:Customs (Administration of Rules of Origin under Trade Agreements)Rules, 2020)」が2020年9月21日より発効されました。この原産地規則により、主に(1)輸入者の原産地証明にかかる責任と、(2)税関職員の権限強化について規定され、原産地手続きが厳格化されたため留意が必要です。具体的には、輸入者に対して所定の様式「Form I」に基づく情報収集および最低5年間の保管義務などを求めており、また、税関職員は当該情報開示請求権と10営業日以内に開示されなかった場合や原産性に疑義がある場合における特恵関税による輸入停止、輸出国側の当局への検認要請の権限などを有することとなりました。
なお、インドでは物品およびサービスを輸入した場合に、関税とは別にIGSTが課税されます。この支払IGSTは国内での州間取引の場合と同様、IGST インプット(いわゆる仕入税額控除)として資産計上をすることが可能で(但し一部の品目については例外あり)、売上に対して課税される預かりIGSTの未払分であるIGSTアウトプットとの相殺が可能となっています。なお、通常の取引では事業者が顧客からGSTを預かり政府へ納税するが、輸入取引の場合には顧客(=輸入者側)が事業者(=輸出者側)の代わりにインド税務当局へ直接GSTを納税する「リバースチャージ(Reverse Charge Mechanism:RCM)」という課税方式が採用されています。
2.海外送金に必要となる書類
インドで物品およびサービスを輸入した場合には、当然にインドから海外送金による支払を実行する必要があります。当該海外送金については外国為替管理法(Foreign Exchange Management Act 1999 (FEMA))にて規制されており、サービスの輸入取引に対する海外送金にあたっては、以下のような書類やフォームが必要となります。承認取引銀行(AD Bank)がFEMAの規定に基づき取引ごとに個別判断を行うため、あくまで一般的なケースとしてご理解ください。
● Form A2:インド準備銀行(Reserve Bank of India:RBI)への報告書
● 海外送金依頼書(銀行所定の申請用紙)
● 請求書、その他関連証憑書類(契約書・発注書など)のコピー
● Form 15CA:海外送金にあたり源泉税を適切に徴収する旨の報告書
● Form 15CB:源泉税課税可否および適用税率に関するインド勅許会計士の証明書
また、物品の輸入取引に対する海外送金にあたっては、以下のような書類が必要となります。なお、通関後に請求書の修正があり輸入価格が増額変更された場合でも、税関申告書に記載されている金額を超えて送金を実行することができないため、税関申告の段階までに輸入価格を確定しておく必要があります。
● 海外送金依頼書(銀行所定の申請用紙)
● 請求書、その他関連証憑書類(契約書・発注書など)のコピー
● Bill of Lading (BOL)やAir Way Billなど : 貨物輸送に関する証憑書類のコピー
● Bill of Entry (BOE):輸入業者が作成し税関へ提出する税関申告書のコピー
3.EEFC外貨建て口座
なお、インド現地法人が外貨保有が可能な指定預金口座(Exchange Earners’ Foreign Currency Account :EEFC)を開設した場合には、外貨建てで輸出代金の受け取りおよび輸入代金の支払が可能となります。なお、EEFC口座は無利子であり、かつ、外貨保有期間が最大1か月間となっているため、保有期間の上限を超えると自動的にインドルピーに転換されることとなるため、この点については口座運用の観点から留意が必要です。
取引スキームや進出事例
H-41: インドにおけるサービスおよび物品の輸入取引
H-42 : インドにおけるサービスの輸出取引
H-43 : インドにおける代理人PEと課税リスク
H-44 : 単一ブランドによる小売取引(ユニクロの進出事例)
H-45 : フランチャイズ契約による小売取引(セブンイレブンの進出事例)
H-46 : NBFCライセンス取得に基づく金融取引(クレディセゾンの進出事例)
H-47 : インド国内外における物品販売スキーム事例
H-48 : インドの保税施設および保税制度について